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東大化学2011 有機の構造決定問題はいきなり答えが……さすがにリモネンは要求できないか^^

東大化学2011

ややこしい計算でお馴染みの東大化学ですが、今年は計算量も少なく、簡単だと言われ続けてきた有機がおそらく全体で一番難しい、という変化を感じさせる問題でした。

そして、有機の天然物の構造決定、今年はリモネンでしたね!

「いきなり答えが分かる!」と書きたいところですが、流石に自重しました(笑)。


さて、2011年の東大化学の難易度は、
河合は易化で、駿台・代ゼミは昨年並、となってますね。

有機はやや難といった感じですが、理論と無機は簡単すぎるんじゃ……。
下手したら化学グランプリの問題の方が難しいんじゃないでしょうかね、これは。

というわけで、さっそく問題を見ていきましょう。

第1問Ⅰ マリケンの電気陰性度と電気双極子モーメント
 電気双極子モーメントに関して、受験化学の範囲でこういう問題が作れることには関心しましたが、どこに難しい要素があるのかは分かりません。計算も素直だし、時間さえあれば普通に得点できる問題かと。

第1問Ⅱ アンモニアの電離平衡に関する反応速度論的考察
 地雷臭の漂う、いかにも解きたくない問題ですが、実はただの見掛け倒し問題でしたね。
 誘導に乗っかれば、スムーズに最後の問題まで行けます。化学グランプリの物理化学の問題に近い感じですが、それよりも簡単だよ、この問題は! いやこれが「やや難」はありえないって!

キ Δ[OH]/Δt は、すなわち[OH-]の増加速度を意味するので、v1-v2 となる。

ク 平衡がどちらに移動していくのかを考える。

ケ クをキに代入すれば瞬殺。。。

コ [NH4+]eq = [OH-]eq であることに気付ければ、あとは代入するだけ。

サ グラフから値を読み取る。そして数値を代入するだけ。


第2問Ⅰ シュウ酸イオンの性質を利用したカルシウムイオンの定量分析
 こういう問題は実際に実験をした経験があればスラスラ解けるんですけどね、高校によっては、十分な化学実験を行わず、ひたすら問題だけを解かせて受験化学の知識を詰め込ませる名ばかり進学校も多いようです。どうせろくな授業しないんだから、授業では実験を存分にやらせればいいのに、と私は思うんですけどね。

 まあ体制批判はそれぐらいにして、問題をば。

ア なんか手順5の方をものすごく書き忘れそうな問題ですね。
 手順1、試料水を10.00 mL は量り取る方法といったら、もちろんビーカーの目盛り……メスシリンダー……ではなく、もちろんホールピペットですよね。有効数字4桁なところがニクイ。

イ イオン反応式と化学反応式のどちらでもOKでしょう。もちろん、楽をしてイオン反応式で書いてしまうのが吉。

ウ 知識としては理解していても、うっかり逆にしてしまうことがあるのが、中和点付近での色変化の問題です。最初のうちは、ビュレットから過マンガン酸カリウムを垂らすと、「一瞬ピンク色になって無色になる」←ここに釣られてしまうんでしょうかね。

エ 滴定の操作に失敗した一回目の実験を除いて、さらに外れ値を除外して平均を取る問題かと思いましたが、そうではなかった模様。単位がmgなのに注意するぐらいでしょうか。

オ・カ 内容が被りますが、洗浄水が多すぎた場合と少なすぎた場合について述べるのが一番無難でしょうか。少なくとも間違いとはいえないですからね。よく自分なんかは吸引ろ過なんかをする際に、洗浄水をついつい加えすぎてしまうので、必然的に収率が悪化し、とても困っています(笑)。この問題もろ過の実験とかの経験があれば難なく解ける問題なんですけどね、東大受験生の皆さんはどうだったのでしょうか?


第2問Ⅱ 水酸化ナトリウムの工業的製法
 典型題ですが、意外とケが引っ掛け問題なのかも。

キ 穴埋め……。

ク 
溶液1000 g 中に、NaOHは120 g(12.0%)、NaClは176 g(17.6%)。
ここで、25℃においてNaOHの溶解度は、水100 g に対し、114 g 。
NaOH 120 g の飽和溶液ということは、水は、100×(120/114)=105.2 g 必要。

というわけで、蒸発させた水は、1000-(120+176)-105.2≒599 g となる。



NaOHの質量パーセント濃度だって?
なんだ、簡単じゃん、設問クが解けてなくても解けるサービス問題じゃね?

NaOHの溶解度は、水100 g に対し、114 g であるから、
114/(114+100)≒53.3%
とした受験生が少なからず存在すると見た!

もちろんこれは間違いで、NaOHの質量パーセント濃度は、(溶質NaOHの質量)÷(溶液全体の質量)で求めないといけない、つまり(NaClの質量)も(溶液全体の質量)に含めなければいけない、というわけで、

水105.2 g(めんどうなので、105 g に近似して)
35.9×(105/100)≒36×(105/100)=37.8≒38

よって、NaOHの質量パーセント濃度は、
120/(105+120+38)≒45.6%
となるわけですね。

今年の問題は全体的に計算はそれほど面倒くさくはないですが、化学の計算問題は、めんどくさいなと思ったら即近似、が基本です。多少ずれても減点なんてされませんよ。だって、化学オリンピックの採点の仕事のとき○にしたもん。


コ イオン交換膜法でNaOHを作っていたところ、なんとイオン交換膜が破けてしまいます。こういう問題大好きです(笑)。「漂泊作用を示す塩が生成した」と大ヒントが書いてあるので、あまり考えずとも瞬間的に答えが求まってしまうのは残念ですが、こういう不測の事態に対する問題って面白いですよね。


サ 熱化学方程式という前世紀の遺物のような問題です。おそらく問題を作成した大学教授の方々は熱化学方程式なんて全く知らないと思うのですが、一生懸命高校の教科書を読み込んで問題を作ってるんでしょうかね……?

問題自体はまあ連立方程式の要領で解いていけばいいんじゃないでしょうか。この形式ならプラスマイナスを間違えることもないでしょう。


第3問Ⅰ リモネンの構造決定
 昨年と同じ出題傾向の問題です。

「みかんの皮の成分」と堂々と宣言してきやがりました!

「みかんの皮の成分」「CとHだけ」「不斉炭素原子(=光学異性体が存在)」「常温・常圧で液体」といえば、まさか……「リモネン」さん来ちゃうんですか(ゾクゾク

いやー興奮しますねー

みかんの皮を使ったお掃除テクとして取り上げられることが多い「リモネン」ですが、発泡スチロール(ポリスチレン)を溶解させることができるんですよね、すごいや!

リモネンは、化学マニア御用達の『パソコンで見る動く分子事典』にも登場してましたから、見覚えのある人も……そんなにいないか(笑)。


でも、知ってる人も一定数存在しますよね。マニアはにやにやしながら解き進めていくわけですな。
いやー、こういう問題、好きです!

また、いきなりAがリモネンと分かってしまっても、すべての問題が一気に解けるわけではない、というのも問題作成者のすばらしいところです。しかし、確かな道しるべとはなる、と。楽しい問題だなぁ。


さて(笑)、では設問に答えていきましょう。

ア 質量分析でAの分子式を決定します。C10H16か、ざわ……ざわ……。

リモネン確定ですね。


オ リモネンの構造式をちゃちゃっと書いておきましょう(笑)。


さて、東大受験生の皆さん、安心してください!
この段階でリモネンと断定できなくても大丈夫です(当然ですが

さて、分子式を求めた後にすることはなんですか?
そうです、不飽和度の決定ですね。必ずしてください。

リモネン 化合物Aの不飽和度を計算すると、3になります。これは後で重要なヒントになりますからね。


イ 水素を付加させる実験をしたら、不飽和結合の種類と数について2通りの可能性が生じた、なんて、計算するまでもなく、「C=C ×2」か「C≡C」に決まってますやん。ただでさえ時間がないんだから、即答でいいんです、こんな問題。


ウ ヨードホルム反応機構を知っていて、えっと確かこう反応していくから係数は……と解いていくのが好ましいのですが、実は未定係数法で解くと、瞬殺です(汗)。


エ この問題だけでなく、東大化学2011全体の山場です。迷宮に迷い込むと出てこれなくなり、無駄に時間を浪費します。諦めるのもまた「ゆうき」ですよ。

さて、実験4のヨードホルム反応の実験から、モノカルボン酸Cには、アセチル基(CH3-C(=O)-)が2つあることが分かります。

すると、モノカルボン酸Cの部分構造に、以下の図のようにアセチル基をくっつけたくなります。

東大化学2011第3問I有機・リモネンの構造決定

アセチル基と部分構造の切れ目の間にCが入る可能性も考えるべきだ、と思ったかもしれませんが、答えになる可能性の高いものから順につぶしていくのが有機の構造決定ってもんですよ。それに今回は使えるCがとても少ないという条件つきです。


ここで、過マンガン酸カリウムで熱する前の状態に戻して考えると、

東大化学2011第3問I有機・リモネンの構造決定

ありゃりゃ、Cが多すぎです。。。Cは10個なのに……。
このままではダメですね
分子内でC=Cをかなり食い込ませて繋げる必要がありそうです。

「不飽和度が3」というデータと「C=C×2」というデータから導き出される「環×1」という条件も、これを裏付けています。


東大化学2011第3問I有機・リモネンの構造決定

てなわけで、二重結合を上のように3パターンに分けて繋ぎ、ぼっちの二重結合にはCを一つくっつけてあげれば、Cは見事に10個になりそうな気がしますね! パズルですな。


αを結ぶと、

東大化学2011第3問I有機・リモネンの構造決定

となり、リモネンになります! (水素を付加すると、不斉炭素原子が消滅することから分かる。)


同様に、βを結ぶと、

東大化学2011第3問I有機・リモネンの構造決定

のように。


γを結ぶと、

東大化学2011第3問I有機・リモネンの構造決定

のようになりますね。


そして、オに「リモネン」を書いて、やっと第3問Iはクリアです。


第3問Ⅱ 酸無水物の反応
 毎年、第3問のⅡは、大学で習う内容をちょっと先取りしたような問題が出てますね。今年はⅠが重かったせいか、Ⅱは楽チンです。

ケ 2-メチルペンタン-1,5-ジアミンが書けない受験生は……さすがにいないか。
この2-メチルペンタン-1,5-ジアミンが非対称な分子であることから、自ずと答えは見えて来ますね。


酸無水物の反応は、反応機構まで考えるとちょっとめんどくさくなりそうですが、パズルチックに解く分には、そんなに難しい問題ではないですね。



というわけで、東大化学2011をお伝えしました!

有機の構造決定はやはり楽しいな。


東大化学は、問題文をきちんと読んで誘導に乗れば、正解までたどり着けるという点において、化学グランプリとかの問題と共通する部分がありますね。


最後に、ちゃっかり自分も携わってるような携わってないような「東大受験まとめサイト」の宣伝もしておきます。東大後期対策のページなんかは、掲示板情報が少なすぎて、ほとんど「中の人たちの勧める東大後期勉強法・参考書のページ」みたいになっちゃってますけどね。まあ割と真面目に書かれていると思います。今年東大を受験した方や、将来東大を受ける東大志望の方など、ぜひご覧ください。


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Tag : 東大化学2011リモネンみかんの皮有機構造決定

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