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化学グランプリ2010 第4問(無機化学)解説
第4問 フッ素、ホウ素の化合物を用いた水素自動車への水素の供給
<凡例>
問○ 分野・テーマ (独断と偏見による難易度評価)
解法。コメント。
問1 三フッ化ホウ素の形とか (易)
アのフッ素の原子番号はまあいいでしょう。
イは選択問題なので、アノードとは書けませんね…
ウはBの周りにFがどう配置するかを考えます。電子対反発則(VSEPR則)より、Fは正三角形の頂点の位置に配置されますね。ところで、VSEPR則か、VSPER則か迷ったときには、EPが"Electron Pair"のことを指すことを思い出せばよいですね!
cf. いろんな分子のかたち!(ウィキペ)
問2 フッ素と水の反応 (易)
水が酸化されて酸素が発生する反応といえば、他に水の陽極(アノード)での電気分解
2H2O → O2 + 4H+ + 4e-
が有名ですね! 第1問と合わせて水の酸化反応は完璧です!
というわけで、公式解答解説集の「水が還元を受ける半反応式」は「水が酸化を受ける半反応式」の間違いか。フッ素は強力な酸化剤であり、水は酸化されてしまうのです。
問3 反応熱を結合エネルギーの値から計算 (易)
機械的に、(反応熱)=(右辺の結合エネルギー)-(左辺の結合エネルギー)で求まってしまうアレ。
納得できない人はエネルギー図を描いてみるといいかも。
問4 ルイスの酸・塩基 (やや易)
ルイスの酸塩基については、化学グランプリ2008第1問を参照。
ルイズではない。ルイズルイス(※スペ語教官)でもない。
本問では、ルイス塩基、すなわち非共有電子対をもつ化合物ではないものを探す。化学グランプリに限らず、神経衰弱戦として定評のある大学入試センター試験や、大学の二次試験において、焦っていると、この否定語句を読み飛ばしてしまうことがあるので注意が必要だ! 私はよくセンター国語でやらかしていたぞ!
てなわけで、フェノールには酸素原子上に非共有電子対があるし、ジエチルエーテルにも酸素原子上に、ピリジン、アニリンには窒素原子上に非共有電子対があるので、ここではメタンと水素を選ぶことになりますね!
問5-エ・オ ホウ素、窒素の最外殻電子数 (易)
選択問題!? 全電子数と勘違いしてほしくなかったのでしょうか?
問5-カ・キ 高圧相窒化ホウ素の結晶構造 (やや難)
閃亜鉛鉱型構造(ZnSなど)やダイヤモンドの密度の問題を解いたことがあれば少し解きやすかったかもしれないが…
まず、ホウ素と窒素はいずれも、他方の元素の原子からなる正四面体の重心に位置しているということは、ホウ素と窒素単独で見ると、両者とも正四面体のパートの繰り返しで出来ているということである。
これを普段見慣れた耐震立方格子←? 体心立方格子や面心立方格子へと変換するために、立方体の頂点のどの位置に原子が位置すれば正四面体になるかを考えよう。
ちなみに、単純立方格子とは、立方体の頂点の位置すべてに原子が位置しているだけの単純な構造であり、問題としてつまらない(笑)
そして立方体の中に正四面体を配置するには、

とすればよい! 正四面体のどの辺も立方体の一辺の√2倍になっていますね!
これくらいの経験値は必須でっせ!
そしてこれでは何がなんだか分からないので、これを8個組み合わせて、一回り大きな立方体を作ります。

これは面心立方格子ですよね!
というわけで、単位格子の中には4個の原子が含まれます。
ここで図の赤い球をホウ素原子だとしたとき、ホウ素原子が作る正四面体の重心各8点すべてに窒素原子を配置すると、単位格子中の窒素原子の個数が8個となり、窒化ホウ素 BN ではなく、二窒化ホウ素 BN2 となってしまいますね! よって、窒素原子はホウ素原子が作る正四面体の重心の位置に1/2の確率で入ることになります。ここでは同様に確からしく窒素原子が配置され、互い違いの位置になったと考えましょう。

問6 窒化ホウ素のような無機高分子の例 (易)
黄リン(P4)は正四面体型構造をもつ分子性固体。一方の赤リンは Px。
ゴム状硫黄が黄色であることを当時17歳の高専生が確かめて話題になったのは昨年のことだったかなぁ。
なお、斜方硫黄と単斜硫黄は、王冠型の S8 分子を単位構造とする結晶である。
問7 三フッ化ホウ素とアンモニアから窒化ホウ素を得る化学反応の式 (易)
ただ係数を合わせるだけ。
問8 高圧相窒化ホウ素の性質 (やや易)
常圧相窒化ホウ素の結晶構造は黒鉛そのものだし、高圧相窒化ホウ素の結晶構造も「正四面体」なんてあたりがダイヤモンドの結晶構造に似ているということに気付けば簡単な問題だ。
1番は黒鉛の性質、ということで、常圧相窒化ホウ素に対応する。
2番はダイヤモンドの性質、ということで、高圧相窒化ホウ素に対応する。ダイヤモンドが電気伝導性を持たないのは、炭素の4つの価電子がすべて共有結合に利用されているから、とかいうアレである。
3番は、図1なんかを見ても明らかであろう。
問9 常圧相窒化ホウ素の結晶構造 (易)
Nの隣はB。これはシートの上下にも適用され、理由は電気陰性度からも明らかな通り、電気的な分極による。
問10 高圧相窒化ホウ素の密度計算! (標準)
密度は、g cm-3 で表される。質量÷体積、だ。
原子量とは、その原子の1モル分の質量のことであり、今回単位格子中には、Bが4個、Nが4個入っている。そこで、質量部分は、
(10.8+14.0) × (4/6.02×1023) g
となる。
体積部分は、単純に単位格子の一辺の長さを3乗すればよいのだが、与えられているのはB-N結合距離のみ。これが単位格子の立方体の体対角線の1/4であることに気付くのは初見では難しいかなぁ…。ぜひ大学入試までには触れておいて欲しい型の問題なので、今回初めて出会った人はしっかりモノにしちゃってください。
というわけで、単位格子の立方体の体対角線が
157×10-10 ×4 cm
となり、これを√3で割った値が単位格子の立方体の一辺の長さとなる。
あとはこれを3乗すれば体積がでる。
そして最後に、質量を体積で割れば密度が求まる。
これだけの問題なのだが、意外と間違えてしまうという厄介な問題。意地悪な問題。よって大学入試の振るい落としには、結晶の密度系問題は最適というわけだ。
でも、密度の計算結果は、普通は常識的な値の範囲に収まるはずなので、×10□ なんてものが出てきたら、計算ミスを疑うべきだ。
問11 アンモニアボランがエタンよりも高い融点、沸点を持つ理由説明 (やや易)
いままでの第4問の文章だけでなく、第3問なんかにも色々なところにヒントが散りばめられていましたね!
アンモニアボランが極性分子であることが述べられていれば○になる問題でしょう。
問12 ボラジン B3N3H6の構造推定 (やや易)
「炭素化合物類似の構造」に着目! BとNをCに置き換えれば、それは C6H6、かの有名なベンゼンであり、それをもとに、C を B- と N+ に置き換える!
すべて単結合で書いてしまったら、ちょっと電子が偏っているので減点かなぁ。ベンゼンに似てないしね。まあ本当は6員環に、非局在化を表す○をつけちゃうべきなんだろうけど。
+と-を書き加えないといけないという意味ではちょっと意地悪な問題かな?
問13 アンモニアボランを用いて水素自動車に水素を供給! (易)
単位が m3 です!!
ま た 単 位 注 意 問 題 か ! !
今年の問題(化学グランプリ2010)にはやけに多いですね。
せっかく標準状態 273 K, 1.013×105 Pa (= 1 atm)での気体1 molの体積 = 22.4 L、と与えられているのですから、これを用いない手はありませんね!
あとは計算ミスをしなければ答えは容易に求まるでしょう。25.7 kg ね!
ふう二次の実験試験開始日ギリギリで、一次試験の解法解説が終わったぜ……。
もう二次試験に出場する皆さんがこれを読むころには、結果もすべて出終わった後かとは思いますが、二次試験も頑張ってくださいね。
滴定が出たら1回目はズルするんだぞ~~(笑)
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問○ 分野・テーマ (独断と偏見による難易度評価)
解法。コメント。
問1 三フッ化ホウ素の形とか (易)
アのフッ素の原子番号はまあいいでしょう。
イは選択問題なので、アノードとは書けませんね…
ウはBの周りにFがどう配置するかを考えます。電子対反発則(VSEPR則)より、Fは正三角形の頂点の位置に配置されますね。ところで、VSEPR則か、VSPER則か迷ったときには、EPが"Electron Pair"のことを指すことを思い出せばよいですね!
cf. いろんな分子のかたち!(ウィキペ)
問2 フッ素と水の反応 (易)
水が酸化されて酸素が発生する反応といえば、他に水の陽極(アノード)での電気分解
2H2O → O2 + 4H+ + 4e-
が有名ですね! 第1問と合わせて水の酸化反応は完璧です!
というわけで、公式解答解説集の「水が還元を受ける半反応式」は「水が酸化を受ける半反応式」の間違いか。フッ素は強力な酸化剤であり、水は酸化されてしまうのです。
問3 反応熱を結合エネルギーの値から計算 (易)
機械的に、(反応熱)=(右辺の結合エネルギー)-(左辺の結合エネルギー)で求まってしまうアレ。
納得できない人はエネルギー図を描いてみるといいかも。
問4 ルイスの酸・塩基 (やや易)
ルイスの酸塩基については、化学グランプリ2008第1問を参照。
ルイズではない。ルイズルイス(※スペ語教官)でもない。
本問では、ルイス塩基、すなわち非共有電子対をもつ化合物ではないものを探す。化学グランプリに限らず、神経衰弱戦として定評のある大学入試センター試験や、大学の二次試験において、焦っていると、この否定語句を読み飛ばしてしまうことがあるので注意が必要だ! 私はよくセンター国語でやらかしていたぞ!
てなわけで、フェノールには酸素原子上に非共有電子対があるし、ジエチルエーテルにも酸素原子上に、ピリジン、アニリンには窒素原子上に非共有電子対があるので、ここではメタンと水素を選ぶことになりますね!
問5-エ・オ ホウ素、窒素の最外殻電子数 (易)
選択問題!? 全電子数と勘違いしてほしくなかったのでしょうか?
問5-カ・キ 高圧相窒化ホウ素の結晶構造 (やや難)
閃亜鉛鉱型構造(ZnSなど)やダイヤモンドの密度の問題を解いたことがあれば少し解きやすかったかもしれないが…
まず、ホウ素と窒素はいずれも、他方の元素の原子からなる正四面体の重心に位置しているということは、ホウ素と窒素単独で見ると、両者とも正四面体のパートの繰り返しで出来ているということである。
これを普段見慣れた
ちなみに、単純立方格子とは、立方体の頂点の位置すべてに原子が位置しているだけの単純な構造であり、問題としてつまらない(笑)
そして立方体の中に正四面体を配置するには、

とすればよい! 正四面体のどの辺も立方体の一辺の√2倍になっていますね!
これくらいの経験値は必須でっせ!
そしてこれでは何がなんだか分からないので、これを8個組み合わせて、一回り大きな立方体を作ります。

これは面心立方格子ですよね!
というわけで、単位格子の中には4個の原子が含まれます。
ここで図の赤い球をホウ素原子だとしたとき、ホウ素原子が作る正四面体の重心各8点すべてに窒素原子を配置すると、単位格子中の窒素原子の個数が8個となり、窒化ホウ素 BN ではなく、二窒化ホウ素 BN2 となってしまいますね! よって、窒素原子はホウ素原子が作る正四面体の重心の位置に1/2の確率で入ることになります。ここでは同様に確からしく窒素原子が配置され、互い違いの位置になったと考えましょう。

問6 窒化ホウ素のような無機高分子の例 (易)
黄リン(P4)は正四面体型構造をもつ分子性固体。一方の赤リンは Px。
ゴム状硫黄が黄色であることを当時17歳の高専生が確かめて話題になったのは昨年のことだったかなぁ。
なお、斜方硫黄と単斜硫黄は、王冠型の S8 分子を単位構造とする結晶である。
問7 三フッ化ホウ素とアンモニアから窒化ホウ素を得る化学反応の式 (易)
ただ係数を合わせるだけ。
問8 高圧相窒化ホウ素の性質 (やや易)
常圧相窒化ホウ素の結晶構造は黒鉛そのものだし、高圧相窒化ホウ素の結晶構造も「正四面体」なんてあたりがダイヤモンドの結晶構造に似ているということに気付けば簡単な問題だ。
1番は黒鉛の性質、ということで、常圧相窒化ホウ素に対応する。
2番はダイヤモンドの性質、ということで、高圧相窒化ホウ素に対応する。ダイヤモンドが電気伝導性を持たないのは、炭素の4つの価電子がすべて共有結合に利用されているから、とかいうアレである。
3番は、図1なんかを見ても明らかであろう。
問9 常圧相窒化ホウ素の結晶構造 (易)
Nの隣はB。これはシートの上下にも適用され、理由は電気陰性度からも明らかな通り、電気的な分極による。
問10 高圧相窒化ホウ素の密度計算! (標準)
密度は、g cm-3 で表される。質量÷体積、だ。
原子量とは、その原子の1モル分の質量のことであり、今回単位格子中には、Bが4個、Nが4個入っている。そこで、質量部分は、
(10.8+14.0) × (4/6.02×1023) g
となる。
体積部分は、単純に単位格子の一辺の長さを3乗すればよいのだが、与えられているのはB-N結合距離のみ。これが単位格子の立方体の体対角線の1/4であることに気付くのは初見では難しいかなぁ…。ぜひ大学入試までには触れておいて欲しい型の問題なので、今回初めて出会った人はしっかりモノにしちゃってください。
というわけで、単位格子の立方体の体対角線が
157×10-10 ×4 cm
となり、これを√3で割った値が単位格子の立方体の一辺の長さとなる。
あとはこれを3乗すれば体積がでる。
そして最後に、質量を体積で割れば密度が求まる。
これだけの問題なのだが、意外と間違えてしまうという厄介な問題。意地悪な問題。よって大学入試の振るい落としには、結晶の密度系問題は最適というわけだ。
でも、密度の計算結果は、普通は常識的な値の範囲に収まるはずなので、×10□ なんてものが出てきたら、計算ミスを疑うべきだ。
問11 アンモニアボランがエタンよりも高い融点、沸点を持つ理由説明 (やや易)
いままでの第4問の文章だけでなく、第3問なんかにも色々なところにヒントが散りばめられていましたね!
アンモニアボランが極性分子であることが述べられていれば○になる問題でしょう。
問12 ボラジン B3N3H6の構造推定 (やや易)
「炭素化合物類似の構造」に着目! BとNをCに置き換えれば、それは C6H6、かの有名なベンゼンであり、それをもとに、C を B- と N+ に置き換える!
すべて単結合で書いてしまったら、ちょっと電子が偏っているので減点かなぁ。ベンゼンに似てないしね。まあ本当は6員環に、非局在化を表す○をつけちゃうべきなんだろうけど。
+と-を書き加えないといけないという意味ではちょっと意地悪な問題かな?
問13 アンモニアボランを用いて水素自動車に水素を供給! (易)
単位が m3 です!!
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せっかく標準状態 273 K, 1.013×105 Pa (= 1 atm)での気体1 molの体積 = 22.4 L、と与えられているのですから、これを用いない手はありませんね!
あとは計算ミスをしなければ答えは容易に求まるでしょう。25.7 kg ね!
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