Chemquiry ブログ
化学の探求サイト“Chemquiry”のブログ。
化学グランプリ2009 第2問(有機化学) 解説
第2問 芳香族性、とNMRスペクトル
化学グランプリの一次選考結果が届き始めているようですね。
<凡例>
問○ 分野・テーマ (難易度・平年比 背景知識あり/なし)
解法。コメント。
問1 グラファイトの結晶構造 (易)
超基礎知識。
問2 ベンゼンの異性体(C6H6を満足する構造式) (易)
「環状構造をもち」を読み落としていなければ、容易に正解できる。
答えは、解答・解説冊子に載せられた分子以外にも、
↓の図のような分子などがある。

↑クリックで拡大。化学構造式を習った学生たちは、必ずこういう遊びを一度はする。
ちなみに、こういったベンゼンの構造解明の化学史や、ベンゼンの異性体に関する問題は、ちょっと昔の東大即応オープンや、第36回化学オリンピック(ドイツ)の準備問題でも、出題歴があります。
問3 1,3,5-シクロヘキサトリエンとの比較によるベンゼンの安定性の考察 (易)
頻出!
しかも問題がかなり簡単にしてある。
結合エネルギー云々から始まる問題と一度は出会うはず。そこで演習を。
問4 ヒュッケル則の理解 (易/やや易)
化学オリンピック準備問題で頻出(?)のヒュッケル則。
やっと化学グランプリでも出題されました。
さて、このヒュッケル則に関する問題は、予備知識がないとちょっと戸惑う問題ですが、知っていれば即答です。
化学グランプリらしくないことに、ヒュッケル則に関する説明が若干短いので、予備知識がない人には、ヒュッケル則の理解が、ちょっと難しかったかもしれません。
なんとか問題文中から、二重結合1つあたりπ電子が2個なんだな、単結合と二重結合が交互に並ばないといけないんだな、ということが読み取れれば解答にたどり着ける。
まあ、いずれにしろ、エは怪しすぎるよ(笑)。
ところで、ヒュッケル則は、マクマリー有機化学の概説版の方には、よくよく見ると載ってないんですね。まあ、ここで会ったが百年目。理解してしまいましょう。
図書館にでも行って、ちょっと大きな有機化学の本を見れば載ってます。Webには、いい説明がないなぁ…。「有機化学の部屋」担当のKurter氏に解説をお願いしようかな。
あと、ヒュッケル則の学習においては、もう一つ、複素環式化合物(ヘテロ芳香族化合物)の芳香族性についても学んでおくべきでしょうね。
ちなみに、去年(2008年)の第2回東大即応オープンでもヒュッケル則が出題されています。確か、ピロールは窒素原子を含むのに、その塩基性がアミン等と比較して低い理由なんかを聞いてたっけな?
問5 アニオンになるとヒュッケル則を満たすもの (易/やや易)
これも、ヒュッケル則を学ぶ上において、必ず出てくるテーマですが、予備知識なしで理解しようと思うと難しいかな。
(ア)は、まあ二重結合が2つだから、π電子は4個と分かったとして、(イ)はヒュッケル則を満たして安定になるのだから、なぜかπ電子が2個増えるのかなぁ…と考えて、(イ)に6を埋められるか、が勝負。
もちろん、原理が理解できていればこの上ない。
問6 ベンゼン環に対して付加反応が起こりにくい理由 (易/標準)
共鳴構造を書き慣れていれば余裕。知らなかったら、電子の動きを追っていく…のだが、説明も何もないので、ちょっと厳しいか。過去問の化学グランプリ2007ぐらいはやっておけ、ということかなぁ。
問7 「環境の同じ炭素原子」 (やや易/やや難)
2007年の京大の問題、2008年の阪大の問題に見られるように、NMRという名前が出てこない場合も多いが、この所謂「環境の同じ炭素原子」は頻出の事項である。
よって、一度解いたことがあれば、楽に解けるのだが…、出会ったことがなかった場合、問題文の説明だけだと、ちょっと不十分か…?
なんとか、ベンゼンとブロモベンゼンの具体例を参考に理解したいものですが…。
解けなかった人は、この「環境の同じ炭素原子」だの「電子的に等価な炭素原子」だのの概念はぜひ理解した方がいいですね。
近年の東大ではまだ出ていないようだが…?ひょっとすると…?
問8 13C NMRスペクトルからの生成物予測 (やや易/やや難)
臭化ベンジルを忘れがちです。注意。
こういう問題は、あらかじめ対称性を意識するために、その線を境に分子を折りたためる線を引くのがいいですね。
すなわち、↓のように。

↑クリックで拡大
問9 フラーレンの[6,6]結合と[5,6]結合の数 (やや易)
たまに見る問題。五角形や六角形に注目する。これは幾何の問題。
ところで、中学で習うだろう公式で、なぜか『涼宮ハルヒの憂鬱』にも登場し、なんか微妙に論理的矛盾を生じたまま終わった、オイラーの多面体公式を、サッカーボール フラーレンが満たしているかを何となく確認してみましょう。
頂点の数→C60だから、60個。
辺の数→問9より、90本。
面の数→五員環が12個、六員環が20個なので、32個。
(頂点の数)-(辺の数)+(面の数)=60-90+32=2
ちゃんと成立しました!
オイラーすげぇよ! 天才だよ!
問10 フラーレンの13C NMRスペクトル (やや易)
どの炭素原子も「同じ環境(電子的に等価)」です。
ま、これは何とか分かるでしょう。
問11 C60Oの13C NMRスペクトル (やや難)
やや難ですが、素直に、横にある図に、対称性を意識するため、折り返し線を引けば、裏側とも対称になるので、解決してしまいます。

↑クリックで拡大
有機化学では、対称性(シンメトリー)を意識する問題は、結構多い!
というか、有機化学は「分子の芸術」の世界ですから、それも当然ですかね。
さて、そういうわけで、化学グランプリ2009の第2問は、
背景知識(予備知識)があれば、余裕、昨年比、易化。
背景知識がなければ、昨年並み、
分量は、やや減少か、という問題となったのでした。
何やら、有機化学に関する小問集合といった感じで、全問題を通して流れる、共通のテーマといったものがなく、
「ここでは、特に深入りしないが」「詳細についてはここでは省略するが」といった言葉がやたらと目についた。
そこを掘り下げて、深く考えさせるのが、化学グランプリじゃなかったんですか!?
ただ、中学生や高1、高2生にも、問題が解けた、という満足感を持ってもらう、という目的を考えると、まあ適当な問題…なのかなぁ。

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<凡例>
問○ 分野・テーマ (難易度・平年比 背景知識あり/なし)
解法。コメント。
問1 グラファイトの結晶構造 (易)
超基礎知識。
問2 ベンゼンの異性体(C6H6を満足する構造式) (易)
「環状構造をもち」を読み落としていなければ、容易に正解できる。
答えは、解答・解説冊子に載せられた分子以外にも、
↓の図のような分子などがある。

↑クリックで拡大。化学構造式を習った学生たちは、必ずこういう遊びを一度はする。
ちなみに、こういったベンゼンの構造解明の化学史や、ベンゼンの異性体に関する問題は、ちょっと昔の東大即応オープンや、第36回化学オリンピック(ドイツ)の準備問題でも、出題歴があります。
問3 1,3,5-シクロヘキサトリエンとの比較によるベンゼンの安定性の考察 (易)
頻出!
しかも問題がかなり簡単にしてある。
結合エネルギー云々から始まる問題と一度は出会うはず。そこで演習を。
問4 ヒュッケル則の理解 (易/やや易)
化学オリンピック準備問題で頻出(?)のヒュッケル則。
やっと化学グランプリでも出題されました。
さて、このヒュッケル則に関する問題は、予備知識がないとちょっと戸惑う問題ですが、知っていれば即答です。
化学グランプリらしくないことに、ヒュッケル則に関する説明が若干短いので、予備知識がない人には、ヒュッケル則の理解が、ちょっと難しかったかもしれません。
なんとか問題文中から、二重結合1つあたりπ電子が2個なんだな、単結合と二重結合が交互に並ばないといけないんだな、ということが読み取れれば解答にたどり着ける。
まあ、いずれにしろ、エは怪しすぎるよ(笑)。
ところで、ヒュッケル則は、マクマリー有機化学の概説版の方には、よくよく見ると載ってないんですね。まあ、ここで会ったが百年目。理解してしまいましょう。
図書館にでも行って、ちょっと大きな有機化学の本を見れば載ってます。Webには、いい説明がないなぁ…。「有機化学の部屋」担当のKurter氏に解説をお願いしようかな。
あと、ヒュッケル則の学習においては、もう一つ、複素環式化合物(ヘテロ芳香族化合物)の芳香族性についても学んでおくべきでしょうね。
ちなみに、去年(2008年)の第2回東大即応オープンでもヒュッケル則が出題されています。確か、ピロールは窒素原子を含むのに、その塩基性がアミン等と比較して低い理由なんかを聞いてたっけな?
問5 アニオンになるとヒュッケル則を満たすもの (易/やや易)
これも、ヒュッケル則を学ぶ上において、必ず出てくるテーマですが、予備知識なしで理解しようと思うと難しいかな。
(ア)は、まあ二重結合が2つだから、π電子は4個と分かったとして、(イ)はヒュッケル則を満たして安定になるのだから、なぜかπ電子が2個増えるのかなぁ…と考えて、(イ)に6を埋められるか、が勝負。
もちろん、原理が理解できていればこの上ない。
問6 ベンゼン環に対して付加反応が起こりにくい理由 (易/標準)
共鳴構造を書き慣れていれば余裕。知らなかったら、電子の動きを追っていく…のだが、説明も何もないので、ちょっと厳しいか。過去問の化学グランプリ2007ぐらいはやっておけ、ということかなぁ。
問7 「環境の同じ炭素原子」 (やや易/やや難)
2007年の京大の問題、2008年の阪大の問題に見られるように、NMRという名前が出てこない場合も多いが、この所謂「環境の同じ炭素原子」は頻出の事項である。
よって、一度解いたことがあれば、楽に解けるのだが…、出会ったことがなかった場合、問題文の説明だけだと、ちょっと不十分か…?
なんとか、ベンゼンとブロモベンゼンの具体例を参考に理解したいものですが…。
解けなかった人は、この「環境の同じ炭素原子」だの「電子的に等価な炭素原子」だのの概念はぜひ理解した方がいいですね。
近年の東大ではまだ出ていないようだが…?ひょっとすると…?
問8 13C NMRスペクトルからの生成物予測 (やや易/やや難)
臭化ベンジルを忘れがちです。注意。
こういう問題は、あらかじめ対称性を意識するために、その線を境に分子を折りたためる線を引くのがいいですね。
すなわち、↓のように。

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問9 フラーレンの[6,6]結合と[5,6]結合の数 (やや易)
たまに見る問題。五角形や六角形に注目する。これは幾何の問題。
ところで、中学で習うだろう公式で、なぜか『涼宮ハルヒの憂鬱』にも登場し、なんか微妙に論理的矛盾を生じたまま終わった、オイラーの多面体公式を、
頂点の数→C60だから、60個。
辺の数→問9より、90本。
面の数→五員環が12個、六員環が20個なので、32個。
(頂点の数)-(辺の数)+(面の数)=60-90+32=2
ちゃんと成立しました!
オイラーすげぇよ! 天才だよ!
問10 フラーレンの13C NMRスペクトル (やや易)
どの炭素原子も「同じ環境(電子的に等価)」です。
ま、これは何とか分かるでしょう。
問11 C60Oの13C NMRスペクトル (やや難)
やや難ですが、素直に、横にある図に、対称性を意識するため、折り返し線を引けば、裏側とも対称になるので、解決してしまいます。

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有機化学では、対称性(シンメトリー)を意識する問題は、結構多い!
というか、有機化学は「分子の芸術」の世界ですから、それも当然ですかね。
さて、そういうわけで、化学グランプリ2009の第2問は、
背景知識(予備知識)があれば、余裕、昨年比、易化。
背景知識がなければ、昨年並み、
分量は、やや減少か、という問題となったのでした。
何やら、有機化学に関する小問集合といった感じで、全問題を通して流れる、共通のテーマといったものがなく、
「ここでは、特に深入りしないが」「詳細についてはここでは省略するが」といった言葉がやたらと目についた。
そこを掘り下げて、深く考えさせるのが、化学グランプリじゃなかったんですか!?
ただ、中学生や高1、高2生にも、問題が解けた、という満足感を持ってもらう、という目的を考えると、まあ適当な問題…なのかなぁ。

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